「“好き”が痛みに変わるとき──The Rose『ILYSB』が描いた、執着と静寂」

忘れられないのは、「落ちる瞬間」じゃなく沈んでいく感覚

例えば、恋に落ちた瞬間は思い出せなくても、恋に沈んでいく感覚は、なぜか身体のどこかに残っている。The Roseの『ILYSB』は、その“言葉にできない感情”に静かに触れていく楽曲だ。

音数を削ぎ落とした冒頭が、声の熱を引き立てる

冒頭、ピアノと囁くようなボーカルだけで構成される空間は、息を潜めるようにして始まる。音が少ないからこそ、声の震えや余白が強調され、聴き手の内側にじわりと染み込んでいく。やがてサビに入ると、張り詰めていた想いが一気に溢れ出す。ギターの揺らぎ、ドラムの滲むような熱量。そのすべてが、抑えていた“好き”の爆発のようにも聴こえる。

“I love you so bad”に滲むのは、逃れられない痛み

けれど、この曲が鳴らしているのは単なる「愛してる」ではない。“I love you so bad”──直訳すれば「ひどく君を愛している」だけれど、そこにあるのは、むしろ逃れられない執着や痛みのような感情だ。愛してしまうことが、自分を苦しめている。それでも言わずにはいられない。そんな矛盾が、サウンドにも歌声にも刻まれている。

叫びきったあとの沈黙が、もっとも雄弁だった

曲のラストは再び静けさへと戻り、まるで一人きりの夜に投げ出されるような感覚だけが残る。叫びの後の沈黙──それは、ときに言葉よりも強く、確かな感情を伝えてしまう。

The Roseがこの曲で描いたのは、「好き」とは言い切れない複雑さ。言葉にならない心の底のざらつきに、そっと触れてくるような音楽だ。

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