
記憶に残る恋は、たいてい“完璧じゃない”。
Anne-Marieの『2002』は、そんな不完全さを抱きしめるようにして生まれたポップソングだ。これは、ただ懐かしむだけのラブソングではない。過去の自分と今の自分を、そっとつなぐ橋のような一曲である。
“あの頃”の音で綴られる、感情の断片
『2002』の構成は、一見するととてもシンプルだ。けれど、サビで引用されるのはBritney SpearsやNelly、Jay-Zといった2000年代初頭のヒットソング。個人の恋の記憶と、ポップミュージックの記憶が重なる瞬間が、甘くも切ないノスタルジーを生み出している。
あの年、手をつないで歩いた公園。意味もなく流していたラジオ。無邪気な歌詞の裏には、「あの頃の感情は今どこにあるんだろう?」という問いが隠れている。
完璧じゃない“私たち”のままで
Anne-Marieが描くのは、決してドラマチックな愛ではない。忘れかけていた初恋の温度や、ちょっと照れくさい約束。『2002』は、そういった“ありふれた思い出”を肯定する。そのやさしさは、彼女の他の楽曲──たとえば『Perfect to Me』や『Beautiful』にも通じている。
彼女の歌にはいつも「そのままでいいんだよ」という声が宿っている。自己肯定という言葉が独り歩きしがちな時代に、Anne-Marieの音楽はそれを無理に強いることなく、そっと寄り添ってくれる。
「好きだった記憶」は、今を照らす光になる
“2002年”という具体的な年号は、聴く人それぞれの記憶を刺激する装置でもある。大切なのは、その時代を知っているかどうかではなく、「誰にでも心の中にある“あの頃”を思い出せる」こと。
『2002』は過去にしがみつく歌ではない。むしろ、過去をやさしく振り返ることで、今の自分の輪郭を確かめている。
あの時、ただ好きだった気持ち。そこからすべてが始まった、ということを。