
待ち続けた11年、その沈黙の意味
2013年の『Coup d’État』以来、実に11年。沈黙は時に、音楽家にとって最大の武器になる。G-Dragonはその空白を、逃避ではなく研磨の時間に変えた。
2025年、ついに解き放たれた『Übermensch』は、ファンが思い描いていた“帰還”のイメージを裏切りながらも、その先を提示する作品だった。
「Übermensch」という自己定義
タイトルはドイツ語で“超人”を意味する。ニーチェの思想を引用しつつ、彼は単なるカムバックではなく、進化した存在としての自己像を提示する。それはBIGBANGのG-Dragonでもなく、ソロのクォン・ジヨンでもない、新たな第三の姿だ。
三本の矢──「Power」「Too Bad」「Home Sweet Home」
アルバムの先陣を切った「Power」は、復帰宣言にして自己肯定のマニフェスト。ビートは硬質、フックは直線的で、余計な装飾を排した構造が潔い。
続く「Too Bad」では、Anderson .Paakとの掛け合いが生むリズムの遊びが際立つ。西海岸の軽快さと韓国ヒップホップの鋭さが、互いを引き立て合う。
「Home Sweet Home」では、TaeyangとDaesungという旧友と再び肩を並べる。そこにあるのは懐古ではなく、変化を受け入れた上での再会だ。
視覚と音響のシンクロニシティ
『Übermensch World Tour』で見せたステージは、過去の派手さよりも“間”と“余白”を生かす構成だった。色彩はモノトーンを基調に、突発的な色の爆発を差し込む。音の刃を突き立てる瞬間と、観客に息をつかせる瞬間。その対比が、楽曲の輪郭をさらに鮮明にした。
静かなる革命の行方
G-Dragonは、沈黙の後に生まれる音の強度を知っている。『Übermensch』は、その知識と感覚を極限まで研ぎ澄ませた一枚だ。
これは復帰作ではなく、新しい章の幕開け──彼の革命は、すでに静かに始まっている。