
ヒットメイカーの誕生──『See You Again』という鎮魂歌
Charlie Puthの名が世界に広がったのは、Wiz Khalifaとの共作『See You Again』(2015)だった。
“また会える日まで”と歌われたそのバラードは、故ポール・ウォーカーへの追悼曲として映画『ワイルド・スピード SKY MISSION』に起用され、グラミー賞にノミネートされるなど爆発的な成功を収めた。
ピアノとストリングス、そしてPuthの繊細なボーカル。
一音一音が喪失感をまといながら、リスナーの“感情の余白”にそっと入り込んでくるようだった。
その時点で彼は、すでに「感情を数式化できる人」だったのかもしれない。
完璧な耳、計算された狂気──『Attention』と“ミックスの魔術”
次に彼が放ったのは、『Attention』(2017)。
一聴して耳を惹きつけるスラップベースから始まり、洗練されたリズムとハーモニーが絶妙に配置されている。
Puthは自身の絶対音感を活かし、ミックスの段階まで“感情の設計図”として音楽を操っていた。
彼はインタビューで「音は目で見るもの」と語ったことがある。
実際、自宅のスタジオでほぼすべての制作を一人でこなすスタイルは、彼が“音の支配者”であることを物語っていた。
だがその完璧さゆえに、「温度のないポップ」と揶揄されることもあった。
バズとの距離感──『Light Switch』『Left and Right』で見せた自己パロディ
2022年以降、Charlie Puthは自身の制作過程をTikTokで公開し始める。
「スイッチの音が良すぎたから、曲にした」というノリで生まれた『Light Switch』は、その裏で細かく練られたサウンドが“ふざけ”に見えるほどの完成度だった。
また、BTSのJung Kookとの共作『Left and Right』では、ステレオの左右を生かしたポップな仕掛けが話題に。
ただ、バズを意識しすぎたプロモーションは、「軽くなった」「ネタ化した」と一部で批判も呼んだ。
その軽快さは魅力でもあったが、同時に「深く聴かれる」ことを手放したようにも見えた。
“ヒーローになれなかった”その後──『Hero』が示す、人間としてのCharlie Puth
そして2025年、彼が世に放ったのが『Hero』だった。
“Maybe I could be your hero”──
守れなかった過去への後悔、言葉にできなかった感情。
完璧さに頼るのではなく、むしろ“無力な自分”を見つめることで、ようやくCharlie Puthの音楽は“人間”に戻ったように感じられる。
ヒーローであろうとすること。
それは誰かを守ること以上に、自分の弱さと向き合うことなのかもしれない。
完璧すぎる音が少しだけ壊れたとき、そこには確かに、心の温度が宿っていた。