「声にならない約束──Official髭男dism『Tattoo』が残したもの」

傷の記憶は、静かに残っている

それは、声にならないまま、胸の奥に残っている。
忘れようとしても、ふとした瞬間に疼くように浮かび上がる──そんな約束のようなものが、誰の心にもあるのかもしれない。

Official髭男dismの『Tattoo』は、そうした“消せない記憶”の輪郭を、音楽という形で静かに浮かび上がらせる。激しさではなく、あくまでやわらかなトーンで。まるで痛みをなぞるように。

“タトゥー”という名の選択

タトゥーという言葉には、いつも“消せないもの”という前提がある。
この楽曲で描かれるのは、愛によってつけられたその痕跡だ。確かに一度は選び、触れ合い、そして離れた相手。その過去をなかったことにしないのは、自分自身の選択を信じたかったからだろう。

「正しい未来」を目指すために、“いまこの瞬間”を諦める──そんな切なさが、淡々と進行するサウンドの中でじわじわと広がっていく。

優しさの中にある、確かな意志

ヒゲダンの楽曲がときに“優しすぎる”と言われるのは、その強さを表に出さないからだ。『Tattoo』もまた、叫ばない。訴えない。ただ、静かに「選んだ過去」とともに生きていく決意を、メロディに託している。

誰かと出会い、愛し、選んだその日々が、たとえ終わっても意味があったのだと信じられること。それは、大人になるということと、きっと似ている。

消せないものと、生きていく

もう戻れないと知っている。
でも、それでも思い出すことをやめない。あの時の気持ちをなかったことにしない。それが、声にならなかった“約束”の形だったのかもしれない。

この歌が残したのは、癒しでも慰めでもなく、ただ「それでも前を向く」というひとつの姿勢だ。消えないタトゥーとともに進むすべての人に、この曲はそっと寄り添っている。

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