
Spotifyで偶然流れてきた瞬間、思わず画面を確認してしまった。
誰だろう、この耳に心地いい英語のフレーズ。しっとりとしたトーンなのに、どこか無垢な明るさがある──てっきり海外のR&Bアーティストだと思っていた声の主は、Ayumu Imazu、日本生まれ・日本育ちのアーティストだった。
『Obsessed』は、Ayumu Imazuの代表的な英語曲のひとつであり、繊細な余白と80年代風の音作りが交差する楽曲だ。ビートは控えめで、煌びやかすぎないシンセが淡く漂い、声がすっと溶け込んでいく。けれど、それだけでは終わらない。この曲には、“時代”と“距離”を飛び越える不思議な説得力がある。
80年代のエッセンスと、現代のミニマルな質感
イントロの時点で、80sを思わせる雰囲気が立ちのぼる。ドラムマシンの質感やコーラスの入れ方には、どこか懐かしさを感じさせる響きがあるが、全体の構成は驚くほど洗練されている。余白を活かすミックスと、音数を絞ったアレンジ──このバランス感覚が、現代的な中毒性を生んでいる。
音を詰め込みすぎず、ギリギリまで引き算することで、逆に声やメロディの存在感が際立っていく。サビの「I'm obsessed with you」というフレーズも、決して大げさではないのに、静かに胸を打つ力を持っている。
“英語が上手い”を超えて、“感情が伝わる”という強み
Ayumu Imazuの歌を聴いてまず驚かされるのは、やはり英語詞の自然さだ。発音の流暢さはもちろんだが、それ以上に心を動かすのは、言葉の間やブレスの置き方、声のトーンの変化といった細部への意識。
彼はインタビューでも「英語は独学で学んだ」と話している。だが、単に勉強した英語を歌にしているのではなく、言葉を音楽としてどう響かせるかを感覚でつかんでいる印象が強い。
そして何より、英語が“武器”ではなく“表現の一部”として機能している。どんな言語で歌うかよりも、どんな感情で伝えるか。その問いに、彼は正面から答えているように思える。
日本という枠を超えて届く声
Ayumu Imazuという存在は、J-POPでもK-POPでもない、どこにも属さない空白の場所に立っている。その自由さが、今の時代にとっては最も強い個性なのかもしれない。
『Obsessed』を聴いて感じるのは、派手な感情ではなく、“心の奥で静かに疼く何か”。言葉を並べるよりも、そっと寄り添うような音楽。
この声は、国境や文化を超えて、リスナーの深いところにそっと触れる。
Ayumu Imazuは、今まさに“どこか遠く”ではなく“すぐそば”で、私たちに語りかけているのだ。