
感情がこぼれ落ちる瞬間を、誰かと共有できたことがあるだろうか。
Olivia Rodrigo の音楽には、言葉にならなかった痛みや未整理な感情がそのままの形で残っている。
傷つくことを恐れずに、不安や怒り、嫉妬までも音にしてしまう彼女の表現力は、
ただ“若い”という言葉で片づけられるものではない。
特に10代〜20代前半の女性たちが、彼女の歌詞に強く共鳴する理由は、
そこに“カッコつけない感情”が存在しているからだ。
本稿では “drivers license” や “vampire” を中心に、
Olivia Rodrigoが奏でてきた“未完成なままの青春”の輪郭を探っていく。
“drivers license”──記憶の風景に感情を重ねる
Olivia Rodrigoの名が世界に広まったのは、デビュー曲 “drivers license” の登場によってだった。
この曲は、ただのヒットソングではない。“感情の生々しさ”をそのまま届けた異例のデビュー作だった。
“I got my driver’s license last week…”
それはただの出来事ではなく、「もうあなたがいない世界での最初の一歩」だ。
赤信号、あなたの家の前、車の中の沈黙──
具体的な風景と淡々とした語りが、逆に強烈な喪失感を引き起こす。
Oliviaはこの曲で、
「もう終わった関係」をどう処理していいか分からない、
**“気持ちが取り残されたままの日常”**をそのまま残した。
“vampire”──怒りの言語化、その限界を越えて
“vampire”では、失恋の痛みが怒りに変わるプロセスが描かれている。
でもそれは暴力的な爆発ではなく、皮肉と諦めが混ざった、鋭い告白だ。
“You sunk your teeth into me, oh, bloodsucker…”
冷静さを装った語り口の中に、感情のコントロールがきかなくなる瞬間が潜んでいる。
後半に向けて音が膨らんでいく構成は、抑えた声の裏側にあった衝動を可視化していくようだ。
Oliviaの描く怒りは、「泣き叫ぶ」ではなく、
「抑えきれない気持ちが静かに壊れていく」タイプの怒りだ。
“lacy”──嫉妬と自己否定、そのグレーな感情
“lacy”は、静かなトーンの中に、嫉妬、羨望、自己嫌悪といった「説明しづらい感情の混乱」が広がっている。
“I despise my jealous eyes and how hard they fell for you”
この曲が特別なのは、その感情を決して「正当化」しないこと。
ただ、そのまま置いていく。整理も、美化もしない。
だからこそ、未完成なままの“痛み”としてのリアリティがある。
「沈黙を鳴らすということ」
Olivia Rodrigoの音楽は、強さや完成を目指すものではない。
むしろ彼女は、感情のぐちゃぐちゃな形を、堂々とそこに置いて見せてくれる。
それは、何者でもないまま不安定に生きている多くのリスナーにとって、
「このままでも大丈夫なんだ」と感じさせてくれる場所になる。
叫ぶでも、抑えるでもない。
その中間にある沈黙のような声が、今、世界中で必要とされているのだ。