
2025年3月、YOASOBIが発表した『Players』は、PlayStation 30周年を記念して制作された。
だがこれは単なるタイアップソングではない。
“ゲームの記憶”を出発点に、私たちの内面へと滑り込むような深度をもった作品だ。
サウンドが紡ぐ“ゲーム体験”の記憶
この曲を耳にした瞬間、まるで起動音が脳内に鳴り響く。
ビープ音や電子音、操作音を思わせるエフェクト──それらが4つ打ちのリズムの中に精密に配置され、リスナーをゲーム世界へといざなう。
YOASOBIはここで、音楽そのものを“ゲームプレイ”に見立てている。
音は順を追って展開するのではなく、まるで再起動を繰り返すかのように立ち上がり、消え、また現れる。
プレイステーションの記憶、指先の感覚、負けた夜、勝ちに震えた朝──
それらがサウンドという媒体を通じて立ち上がってくる構造は、ポップソングとして異例の没入感を生んでいる。
反復されるフレーズが示す、“再挑戦”という構造
「Play on! You & me!」
「もう一回もう一回」
この繰り返される言葉たちは、ゲームだけでなく、人生そのもののメタファーとして響く。
やり直しがきく。
失敗しても、もう一度プレイすればいい。
その感覚は、まさにゲームと現実をつなぐ“共感装置”として機能している。
さらに、この楽曲の発想源は、SNSで集められた“消したいゲームの思い出”だったという。
だが出来上がった作品は、記憶を否定するのではなく、それを肯定しようとする。
“あのときの悔しささえも、今を彩る一部なんだ”という、静かな救いが込められている。
MVに散りばめられた、30本のゲームへのオマージュ
MVにはPlayStationを代表する30本のゲームの要素が隠されている。
キャラクターの動き、背景、効果演出──あらゆるカットにリスペクトが詰め込まれており、目と耳で“記憶”を再生する構造になっている。
とくに印象的なのは、主人公の「私」が幾度となく立ち上がる姿だ。
ステージが変わり、衣装が変わり、それでも続ける姿は、まさに“プレイヤー”そのもの。
YOASOBIの音楽は、ここでもリスナーを“傍観者”ではなく“参加者”として迎え入れている。
記憶を共有し、音楽が生まれるということ
『Players』の真価は、音楽の中に“他人の記憶”が流れている点にある。
YOASOBIは、匿名の誰かの思い出を拾い上げ、旋律とリズムに置き換えて私たちに手渡す。
そこには、記憶が孤独なものではなく、他者と共有しうるものであるという希望がある。
記憶を閉じ込めるのではなく、もう一度、誰かと一緒に“プレイ”する。
その行為こそが、この曲のタイトルに込められた意味なのかもしれない。